「熱中症特別警戒アラート」ことしの運用開始 何が変わる?

人の健康に重大な被害が生じるおそれがある暑さが予測された場合に新たに発表される「熱中症特別警戒アラート」のことしの運用が24日から始まりました。

特別警戒アラートが発表された都道府県では、熱中症を予防する行動の徹底のほか、自治体は公共や民間のエアコンが効いた施設を「クーリングシェルター」としてあらかじめ指定し、開放することが求められています。

クーリングシェルター 自治体の準備状況は

国内最高気温を観測したこともある埼玉県熊谷市は、クーリングシェルターとしておよそ20か所を指定する予定です。

開放するのは市の分庁舎や公民館などの公共施設13か所とスーパーやドラッグストアなどの民間施設少なくとも10か所で、市の全域をカバーできるよう配置を考えて施設に協力を求めました。

熱中症特別警戒アラートは当日の午前0時から午後11時59分が発表時間ですが、クーリングシェルターを開放する時間は、自治体の判断だとされています。

熊谷市では、夜間も熱中症で搬送される危険性があるとして午前0時まで営業している市内のドラッグストアの店舗に協力を求め、夜間の避難場所とする計画です。

公共施設の開放も検討しましたが夜間や休日に対応する職員の確保が課題としてあがり、民間への協力を求めたということです。

熊谷市環境政策課の青木健さんは「役所はどうしても土日の態勢や夜間対応が難しい部分があるので、民間施設に開放してもらえるとかなり助かる。まずはふだんからということで通常時、発表されていない時も開放していきたい」と話していました。

専門家“自然災害と捉え対応を”

環境省の作業部会のメンバーで、災害時の避難行動に詳しい社会安全研究所の首藤由紀所長は「特別警戒アラートが出るような熱波ということになると夜間でもとてもエアコンなしでは暮らせないという状況だ。いわゆる自然災害のひとつとして捉え、災害対応として市町村は実施する必要があり、国や都道府県もふだんから市町村の取り組みを支援する、発生後も必要な支援を行う仕組みを整えてほしい」と話していました。

クーリングシェルターの設置状況について、NHKは全国の県庁所在地と政令指定都市、それに東京23区のあわせて74の自治体に取材しました。その結果、▽設置を決めているのが8自治体、▽ことしの夏までに設置することを検討しているのは46自治体でした。

一方、▽15の自治体が検討しているものの具体的には決まっていないとしたほか、▽5つの自治体は設置の予定がないと回答しました。全体の4分の1あまりの自治体は運用開始時点で具体的な設置の予定はなく、自治体によって対応に差が出ていることが分かりました。

設置の予定がない理由を聞くと、▽すでに公共施設を誰でも涼める場所として開放しているためとか、▽休日に開放する際の職員の体制確保や、利用人数の想定が難しい、といった回答がありました。環境省は自治体向けに説明会や先行事例を紹介するなどして、シェルター設置の取り組みを後押ししたいとしています。

教育現場で進む熱中症対策

新たに運用が始まる「熱中症特別警戒アラート」やすでに使われている「熱中症警戒アラート」は気温だけでなく、湿度や地面などからの熱を計算した「暑さ指数」をもとに発表されます。熱中症を防ぐためには暑さ指数も考慮した対応が必要です。

山形市では熱中症予防の指標となる「暑さ指数」をリアルタイムで把握する観測機器を市内の小中学校と高校の合わせて6校で今月から試験的に導入しました。

山形県内では2023年、米沢市で、部活動を終えて帰宅途中だった女子中学生が熱中症の疑いで搬送され、その後死亡しました。こうしたことなどを受けた対応です。

“熱中症対策を強化し子どもの命を守る” 山形市教委

山形市教育委員会は、2023年から各学校に、気温の上昇が見込まれる場合、30分に1回程度、「暑さ指数」の計測を求めていて、「暑さ指数」が31以上になった場合、運動は原則中止としています。

観測機器を使うことで1分ごとに更新される「暑さ指数」を、パソコンやスマートフォンで確認することができるようになり、体育や部活動など屋外での活動の判断に活用することにしています。

山形市教育委員会教育企画課の西村尚人課長は「去年、県内では熱中症とみられる症状で搬送された生徒が亡くなっているので、熱中症対策を強化し、子どもの命を守っていきたい」と話しました。

「暑さ指数」を考慮した対応の必要性 データからも

例年、多くの高齢者が熱中症で救急搬送されていますが、去年も学校の部活動や運動会の練習中などの際に生徒や児童が熱中症とみられる症状で搬送されるケースが相次ぐなど子どもの対策も必要です。

NHKが日本スポーツ振興センターから提供を受けて行った都道府県や発生日時、時間などが記載された詳細なデータの分析では、2003年から2021年までの間に生徒や児童28人が熱中症で死亡していたことが分かりました。

これらを環境省が公表している「暑さ指数」のデータと照合したところ、分析可能な2010年以降に起きた15件のうち、▽運動の原則中止を求める「危険」が2件、▽激しい運動を中止するよう求める「厳重警戒」が10件と8割で熱中症になる危険性が高い環境だったことがわかりました。気温だけでなく「暑さ指数」を考慮した対応の必要性がデータからも見て取れます。

日本スポーツ協会の指針では「暑さ指数」が31以上では“運動は原則中止”、28以上では“激しい運動は中止”すべきとしていて、文部科学省などの手引きではこれを参考に体育などの授業や運動会、遠足といった活動の参考に学校での熱中症対策を進めるよう呼びかけています。

「暑さ指数」は環境省のサイトでも公開

24日から環境省の「熱中症予防情報サイト」で、「熱中症特別警戒アラート」の発表の指標となる「暑さ指数」を確認できます。

都道府県ごとに観測地点があり、▽神奈川県や佐賀県が最も少ない5地点、▽北海道は最も多く163地点で、それぞれの地点の現在の状況や今後の予測値を確認することができます。環境省は、翌日の予測値を確認し、すべての観測地点で暑さ指数が35以上になると予測される都道府県を対象に、「熱中症特別警戒アラート」を発表します。

環境省によりますと、過去にこの基準に達した事例はなく、これまでに最も暑さ指数が広域で高くなったのは、2020年8月11日に埼玉県の8地点すべてで34以上になった時で、このうち2地点は35を記録したということです。