高校に「投資部」 新たな形の金融教育は

高校に「投資部」 新たな形の金融教育は
部活と言えば、大会を目指してトレーニングに励んだり、音楽などの文化活動に取り組んだり。そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

ただ、今回取り上げるのは、全国的にも珍しい「投資部」です。部活で投資?という声もありそうですが、明確な教育目的があるといいます。

いま、国は、金融に関する知識や判断力を身につける金融教育に力を入れています。2年前には高校で金融教育が必修化されました。部活動での投資経験を通じて金融について学んでもらう、それが狙いです。

(経済部記者 斉藤光峻)

高校に投資部?!

投資部があるのは沖縄市にある仙台育英学園沖縄高校です。

那覇市の中心部から車でおよそ40分、住宅が立ち並ぶなかに、薄いピンク色が特徴的な校舎が現れます。
2023年4月の開校にあわせて「投資部」が設けられました。

学校では、家庭科の授業で金融教育を行っています。

ただ、座学だけでは得られないものがあり、学んだ知識を実践で活用してほしいと、この部の設立を決めたそうです。

沖縄県の所得水準が全国でも低いとされる中、生徒たちの金銭的な自立につなげたいという思いもあったということです。

この部では、どんな活動を行っているのか。

週1回の活動日に学校を訪れました。

授業が終わった午後3時半過ぎ、教室に集まってきたのは、入部を検討する1年生と投資部の生徒あわせて19人。

入部体験を兼ねたこの日は、オンラインで東京の証券会社の社員から講義を受けました。
「就職活動で東京に滞在するとしたら、どれくらいの費用がかかるのか」、「海外に留学に行くにはどれぐらいのお金が必要か」などと生徒たちに問いかけ、生徒たちはインターネットで費用などを調べ自分のライフプランなどとあわせて発表していました。

その後、投資部の2年生は別の教室に移り、今年度どういった銘柄に投資をするか、議論を始めました。
生徒達の手元には、業界ごとの最新事情が掲載された冊子や株価のチャート。

気になる企業や業界について最新状況を調べます。

メンバーからは「2024年問題というのをニュースで放送していた。バス業界で運転手不足が予想されるので、AIや自動運転の技術を持つ企業が注目されるのではないか?」「ことし11月にアメリカで大統領選挙が行われる。大統領候補が力を入れている政策と関係ある日本の企業を探してみてはどうだろうか」など、国際情勢や社会問題を意識した議論が進められていました。

投資部の仕組みとは

この投資部、実際に株式を売買しますが、次のようなルールが決められています。
○学校が100万円の資金を用意。

○入部にあたっては、証券会社の講義7回をすべて受けることが条件。

○講義で得た知識やテレビなどで収集した情報をもとに、生徒がどの株式を買うか検討。

○運用成果を求めるのではなく、社会への関心を広げる目的から、購入するのは、投資信託などではなく、日本企業の株式に限定。

○銘柄を決める際は、その理由を発表し、部員の過半数の同意を得ることが必要。

○生徒が購入したい銘柄を先生に伝え、先生が証券会社に対して株式の購入を依頼。
投資を通じて国際情勢や社会問題などに触れること、日本企業の財務情報を読み解いてリスクを含めて自分で判断できる力を身につけること。

こうした方針に沿って部活動が運営されているということでした。

投資で学んだこととは

投資部ができてからおよそ1年。

いまの2年生たちは、去年7月からことし2月にかけて実際に株式を売買しました。

結果をまとめた運用報告書には、購入した理由や反省点などがつづられていました。
たとえば「新型コロナが去年5月に5類に移行し、国内外を含め観光客が増加してきたので、需要が高まる」と判断して投資した企業は、順調に株価が上昇し、利益が出ました。

一方で、別の銘柄で、株価が上昇から下落に転じる場面があったことについて、その企業の活動に関して発覚したトラブルが要因だと分析し、「常日頃よりニュースで確認する習慣が大事だ」と気づきを得た経験も記されています。

2023年度の投資部の実績は、購入した10余りの銘柄のうち半数以上で株価が上昇。

単年度決算のため年度末までにすべての株式を売却するなど売買のタイミングが限られることや、大口の取引ではなく手数料の負担が相対的に大きくなることから、最終的な損益はマイナス1万円あまりとなりました。

損益については学校側が管理することになっていて、利益が出た場合には寄付を行うなどするということです。

生徒たちに1年間の活動について聞いたところ「投資をやってみると、社会の情勢とかを調べる必要が出てくるので、意識してニュースを見るようになりました」とか「周りで起きた出来事によって、何か変化が起きる業界があるのではないかと考えるようになりました。世界の遠いところで起きている話が身近に感じられるようになりました」と話していました。

日本の金融教育の課題は?

物価が上がる経済への変化の兆しが見え始め、資産形成の重要性が増す中、国は金融教育の普及に力を入れています。

2年前には高校で金融教育が必修化され、ことし4月には、金融教育の司令塔となる官民一体の組織「金融経済教育推進機構」が発足しました。

投資部の活動もこうした流れを意識したものです。

金融経済教育推進機構の安藤聡理事長は、直接、この部活のことは知らないとした上で、学校に対する支援としては教材の提供や講師の派遣を基本にしつつ、趣旨に沿ったクラブ活動などがあれば協力していきたいとしています。
安藤理事長
「金融教育は、学ぶことが必要条件だが、その知識を活用して実践することが欠かせない。リスクや知識などの基本を押さえた上で実践につながるようなきっかけを与えることが非常に重要だ」
そして、安藤理事長は幅広い世代に金融教育を普及させたいと強調しました。
安藤理事長
「家計管理や資産形成を含めた広い意味での金融経済教育が日本ではまだ十分に行き渡っていないのが現状で、積極的に学びの場を提供したい。国民の1人1人が自ら責任を持って選択できるような社会にしたい」
日本では、金融教育を受ける機会が欧米と比べて少ないと指摘されています。

日銀が事務局を務める金融広報中央委員会が2022年に18歳から79歳までの3万人を対象に行った調査では、「金融教育を受ける機会はありましたか」という質問に対して「受けた」という回答は7%。

アメリカで行われた同様の調査では20%で、大きな差が開いています。

人生100年時代とも言われる中、私たちは生きている限り、お金の問題から離れることはできません。

どのように資産形成をしていくのか、どこにリスクが潜んでいるかを考えていくことがますます重要になってきます。

そのためにはどんな教育が必要で、どんな取り組みが行われているのか、これからも注目していきたいと思います。

(5月6日「ニュース7」で放送)
経済部記者
斉藤光峻
2017年入局
長野局などを経て、経済部で金融分野を取材