【詳しく】水原一平元通訳を起訴 司法取引で罪認める方針

大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の口座から不正に送金を行ったとしてアメリカの捜査当局は水原一平元通訳を銀行詐欺などの罪で起訴しました。
また、司法省は水原被告が検察との間で起訴内容を認める司法取引に合意したと発表しました。

米司法省 ”水原元通訳を銀行詐欺などの罪で起訴”

アメリカ司法省は8日、水原一平元通訳が違法賭博による借金を返済するため銀行にうそをついて大谷選手の口座から無断で1700万ドル近くを不正に送金した銀行詐欺の罪と、うその内容の納税に関する書類に署名した罪で起訴されたと発表しました。

水原被告は検察との間で有罪の答弁と引き換えに刑を軽減する司法取引に合意し、裁判で起訴内容を認める方針だということです。

水原被告はアメリカの捜査当局に銀行詐欺の疑いで訴追され、先月12日に保釈されています。

水原被告の罪状認否の手続きはロサンゼルスにある裁判所で9日に予定されていましたが、14日に延期されました。

ロバーツ監督「この問題が終わりに近づくこと願っている」

ドジャースのロバーツ監督は日本時間9日に行われた試合後、大谷選手の専属通訳だった水原元通訳が、司法取引で起訴内容を認めることに同意したという報道についてコメントを求められたのに対して「彼の状況について知らなかったのでコメントはない。ただ、この問題が終わりに近づいていくことを願っているし、私たちは前に進んでいければいいと思っている」と話しました。

司法取引とは

アメリカの「司法取引」は被告が有罪答弁をしたり、捜査機関に協力したり、あるいは第三者の犯罪についての情報を提供するのと引き換えに、検察官が裁判での被告の求刑を軽減するなどの見返りを供与する制度です。

事件が多いアメリカでは「司法取引」は人員や設備に限界がある中で裁判官や検察官の負担を軽減でき、被告にとっても重い判決を回避できることから、90%以上の刑事事件で行われています。

被告と検察が司法取引で合意すると、公判手続きが大幅に省略されて量刑の審理に移ります。

《司法取引の詳細》

起訴された罪で受ける可能性がある量刑は

司法取引で検察と被告が合意した書類によりますと水原被告が銀行詐欺の罪と納税に関するうその申告の罪で受ける可能性がある量刑は
▽最長で33年の拘禁刑と
▽その後5年の監督付き釈放、
▽罰金125万ドル、日本円にしておよそ1億9400万円などだということです。

水原被告が罪を認め、合意された事項を守った場合、検察は刑の軽減を促すことに同意するとしています。

大谷選手への賠償は

また合意では、水原被告に対して被害者に全額を賠償するよう求めていて、支払う金額は、
▽大谷選手に対して1697万5010ドル、日本円にしておよそ26億4000万円、
▽日本の国税庁にあたる内国歳入庁に対しては114万9400ドル、日本円にしておよそ1億7900万円だと考えられるとしています。

さらに被告がアメリカ国籍でない場合、有罪判決によって国外退去や強制送還は事実上、避けられず、将来、アメリカへの入国を拒否される可能性もあるとしています。

専門家「量刑は4年から6年の範囲と予想」

今回、水原被告と検察が司法取引で合意した背景について、アメリカの司法制度に詳しい駿河台大学の名誉教授を務める島伸一弁護士は「水原元通訳にとっては有罪を認めて刑を軽くした方が刑務所に行く期間が短縮されるメリットがある。検察や裁判所にとっては税金の節約にもつながるし、重要な事件に力を注ぐことができる」として当事者にメリットがあるためだと指摘しています。

水原元通訳に科される刑の重さについては、司法取引の合意にもとづいて「4年から6年の範囲で刑が決まることが予想される」との見方を示しました。

一方、合意では水原元通訳が被害者に全額を賠償することが求められていて「量刑の判断を下す前に返済したという証明を水原元通訳の弁護人は裁判所に出す必要がある。出さなかった場合は返済がなされなかったとして量刑が重くなる」として、賠償が行われることが重要だとしています。

そして今月14日に行われる罪状認否では、水原元通訳は合意に従って有罪の答弁をし、公判審理が省略されて、量刑を決める手続きに移行するとみられるということです。

島弁護士は今後の裁判の行方について「かなり早く進んでいる印象を受ける。水原元通訳が最初に裁判所に出頭した段階から弁護人がついていて、検察、捜査当局との間で司法取引が開始された形になっている。裁判は早ければ2か月くらいで終わるだろう」と指摘しています。

量刑どう決まる

アメリカでは連邦法違反の犯罪に対する量刑について、ガイドラインが定められていて裁判官はこのガイドラインに従って決めます。

ガイドラインではたとえば、
▼対象となる犯罪行為や
▼だまし取った金額、
▼地位の乱用など、
犯罪の性質や被害の大きさなどを数値化した評点が決まっていて、点数が積み上がっていく一方、
▼罪を認めるなどしたら点数が差し引かれる仕組みになっています。

また、過去の犯罪歴も数値化して考慮され、同じ評点でも、過去の犯罪歴にしたがって量刑が重くなる仕組みです。

司法省が公表した資料によりますと、今回の場合、検察は銀行詐欺の罪については
▼基本が7ポイントで、これに
▼被害額に応じて20ポイント、
▼金融機関をだましたとして2ポイントがそれぞれ加算されて、
合わせて29ポイントとなり、87か月から108か月の量刑に該当するとしています。

また、うその内容の納税に関する書類に署名した罪では、
▼基本が20ポイントで
▼犯罪によって得た収入だとして2ポイントが加算され、
合わせて22ポイントとなり、41か月から51か月の量刑に該当するとしています。

司法省が公表した資料によりますと、今回、水原元通訳と検察とで最終的には25ポイント、57か月から71か月で合意していて、経緯は明らかにされていませんが、司法取引によって刑が軽減されたとみられます。

《合意書類で明らかになった詳細な事実》

大谷選手になりすまして不正送金 その方法は

司法取引をめぐって検察と被告が合意した書類にはさらに詳細な事実も記述されています。

このうち、2022年2月には水原元通訳が大谷選手の口座から送金するため大谷選手になりすまして銀行に電話をかけ、車のローンのために必要だと説明したということです。

銀行側は大谷選手本人かを確認するため6桁の番号をショートメッセージで問い合わせ先の携帯電話に送り、水原元通訳は電話でその番号を読み上げて送金を完了させたとしています。

このような手法で水原元通訳は大谷選手になりすまして銀行に24回程度、電話をかけていたということです。

また、2021年11月からことし1月にかけて行った、違法賭博の胴元側への不正送金の回数は少なくとも41回にのぼるとしています。

不正に得た金は1697万5010ドル以上

こうした不正送金に加え、2023年9月に水原元通訳が大谷選手の負担で歯の治療を受けた際、小切手で受け取った治療費6万ドルはみずからの口座に入れ、歯科医には大谷選手の銀行口座から無断で支払ったということです。

さらに、ことし1月から3月にかけては大谷選手の口座を使っておよそ32万5000ドル相当の野球カードを購入していて、将来、転売して利益を得るつもりだったとしています。

水原元通訳が大谷選手の口座から不正に得た金は1697万5010ドル以上になるということです。

起訴された銀行詐欺などの罪とは

水原元通訳は銀行詐欺の罪と、うその納税の申告をした罪の2つの罪で起訴されました。

起訴状によりますと、このうち銀行詐欺の罪では、水原元通訳は2018年3月に大谷選手がアリゾナ州の銀行で口座を開設した際、オンラインで口座にアクセスするための情報を銀行員が大谷選手に伝えた場に立ち会いました。

そして2021年11月、水原元通訳は記憶していたパスワードを使って大谷選手の口座にアクセスし、登録されていたメールアドレスと問い合わせ先の電話番号を変更したということです。

そして、違法賭博による借金を返済するため2021年11月ごろからことし3月ごろにかけて大谷選手の口座から無断でおよそ1650万ドルを不正に送金したということです。

また、納税に関するうその書類に署名した罪では、2024年2月に行った納税の申告で課税の対象になる所得を少なく偽って記載したなどとしています。